「教える立場のはずが、年上の部下に教わった話」AILLコンサルティング ブログ#070

教える立場なのに、教わってばかりだった。そんな経験があります。

それは私が店長3年目のときでした。中途採用で入ってきた店長候補・Sさんの育成を任されたときの話です。今日はその経験が、今の責任者育成にどうつながっているかをお話ししたいと思います。


店長3年目、中途採用の店長候補・Sさんを任された

店長3年目に中途採用の店長候補を指導していたころのイメージ

店長になって3年目、後輩の育成を任されることになりました。その方は中途採用で入ってきたSさんです。

Sさんは、誰もが知っているような飲食店で経験を積んできた方でした。しかも年齢は私より一回り上。立場としては私が「教える側」、Sさんが「教わる側」だったのですが、正直なところ、この関係は最初からちょっとねじれていました。

飲食業のキャリアも、社会人としての年数も、私よりSさんの方がずっと長い。それなのに、私が指導する立場になる。最初はどう接すればいいのか戸惑いましたし、「私が教えていいのか」という不安もありました。

もちろん、ほっともっとの発注のルールやオペレーションなど、基本的な業務については私からお伝えしました。でも、仕事に対する姿勢そのものは、私がSさんから教わることの方が圧倒的に多かったんです。


教えるはずが、教わることの方が多かった

Sさんと一緒に働く中で、特に印象に残っている学びが3つあります。

① 明るさとメリハリの使い分け

Sさんは、普段は冗談を言って現場の空気を明るくしてくれる人でした。ピリピリしがちな厨房でも、Sさんがいると場が和むんです。

でも、指導しなければならない場面になると、その空気を一瞬できっちり切り替えていました。ふざけていい場面と、真剣に伝えるべき場面をはっきり分けている。このメリハリの付け方に、当時の私はかなり衝撃を受けました。

私はまだ経験も浅かったので、指導するときはずっと張り詰めた空気のままだったり、逆に注意すべき場面でも遠慮してしまったり。緩急のつけ方がわかっていなかったんですよね。Sさんの姿を見て、「明るさと厳しさは両立できるんだ」と初めて実感しました。

それまでの私は、優しくするか厳しくするかのどちらか一辺倒になりがちでした。でもSさんを見てからは、普段の空気づくりと指導すべき場面をきちんと分けて考えるようになりました。この切り替えができるようになったことで、自分自身、現場での動き方がかなり変わったと感じています。

② ワークスケジュール表を「作業指示書」として使う

ワークスケジュール表に注意事項を細かく書き込むイメージ

もう一つ驚いたのが、ワークスケジュール表の使い方です。それまでの私にとって、ワークスケジュール表は単に「誰がいつ入るか」を記入するシフト表でした。

ところがSさんは、それを作業指示書として使っていました。その日の担当ポジション、気をつけるべき注意事項に加えて、最近の店舗で良かったこと、直すべきところまで、毎日細かく書き込んでいたんです。

「ワークスケジュール表って、こんなに情報を詰め込むんだ」というのが、当時の私の率直な感想でした。それを見た日から、私自身もワークスケジュール表を「その日誰が入るか」だけの表ではなく、現場に伝えたいことを残すツールとして使うようになりました。

特に効果を感じたのは、直接顔を合わせられない相手にも情報が伝わることです。シフトが違えば、同じ日でも顔を合わせないクルー同士が出てきます。そこにワークスケジュール表という共通の記録があると、口頭で伝えきれない部分も自然と共有されるようになるんです。

③ 日報に、一人ひとりのクルーへの言葉を書き残す

日報にクルー一人ひとりの様子を書き込むイメージ

もう一つ、Sさんの日報には驚かされました。売上や廃棄の金額はもちろん、その内容や要因、改善点まで書くのは、ある程度できる店長なら珍しくありません。私が本当に驚いたのは、その日関わったクルー一人ひとりについて、「良かったところ」「直してほしいところ」まで書き残していたことです。

これ、実際にやってみるとわかるのですが、簡単なことではありません。店を回すことに追われていると、目の前の業務をこなすだけで精一杯になります。毎日顔を合わせているクルーだからこそ、逆にどれくらい成長しているのか、日々の変化に気づきにくくなるものです。

それなのにSさんは、一人ひとりにちゃんと目を向けて、その日の様子を言葉にして残していました。この姿勢に、当時の私はかなり感心させられました。

クルーは、自分のことをちゃんと見てもらえていると感じられると、お店への定着につながります。定着すればQSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)も安定し、それが結果として売上にもつながっていく。Sさんの日報は、そういう好循環の入口になっていたんだと、今振り返ると強く思います。


あの経験は、今の責任者育成にも生きている

現在、責任者候補と一緒にワークスケジュール表を確認するオーナーのイメージ

オーナーになった今、次の責任者を育てる立場になって、あのときSさんから学んだ3つのことを、そのまま自分の育成スタイルに取り入れています。

普段はできるだけ明るく、でも指導が必要な場面ではきっちり切り替える。ワークスケジュール表には、担当ポジションだけでなく、その日気をつけてほしいことや、最近の店舗の良かった点・改善点を書き込む。そして日報には、売上や廃棄の数字だけでなく、その日関わったクルー一人ひとりの様子も書き残す。当たり前のようでいて、これを毎日続けるのは意外と大変です。でもSさんのおかげで、「これができる人が現場を強くするんだ」と早い段階で知ることができました。

教える立場になったからといって、自分が一方的に教える側に回るとは限りません。むしろ、育成を任されたことで、自分の方が多くを学ばせてもらう。そんな関係もあるんだと、Sさんとの日々が教えてくれました。

年齢や経験が自分より上の人を育成することになったとき、つい「教えなければ」という気持ちが先に立ちがちです。でも実際には、相手が積み重ねてきたものから学べることの方が多い場合もあります。立場上は教える側であっても、素直に学ぶ姿勢を持っておくこと。それも、育成する側に必要な心構えの一つなんだと、今になって思います。


まとめ

  • 店長3年目、中途採用の店長候補・Sさんの育成を任された。立場は「教える側」だったが、実際は教わることの方が多かった
  • Sさんから学んだのは、普段の明るさと指導時のメリハリを両立させる姿勢
  • もう一つの学びは、ワークスケジュール表を単なるシフト表ではなく、担当ポジション・注意事項・店舗の良かった点や改善点まで書き込む作業指示書として使うこと
  • さらに、日報に売上・廃棄の数字だけでなく、その日関わったクルー一人ひとりの「良かったところ」「直してほしいところ」まで書き残していたこと。これがクルーの定着、QSCの向上、売上へとつながる好循環を生んでいた
  • これら3つの学びは、今オーナーとして次の責任者を育てる際にもそのまま活きている

育成というと「教える側が一方的に教える」ものだと思われがちですが、私の場合はまったく逆でした。あのときSさんから受け取ったものを、今度は自分が次の責任者に手渡していく番なんだと感じています。

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