「労災保険とは?クルーがケガをしたときの補償と申請の流れ」AILLコンサルティング ブログ#074

「油が跳ねて、手に火傷しちゃいました」

従業員からそう報告を受けたとき、皆さんはすぐに動けますか。私は最初にこの報告を受けたとき、「労災保険」という言葉は頭に浮かんだものの、実際にどう手続きするのかよく分かっていませんでした。とりあえず病院に連れて行っただけで済ませてしまったんです。

後から知ったのですが、それでは会社としてやるべきことをやっていなかったことになります。今回は、クルーが業務中や通勤中にケガをしたときの補償内容と、オーナーとして押さえておくべき申請の流れを整理していきます。


労災保険とは?

厨房で手当てを受けているほっともっとクルーのイメージ

労災保険は、クルーが仕事中(業務災害)や通勤中(通勤災害)にケガや病気になったときに、治療費や休業中の生活費を補償してくれる制度です。ここで大事なのが、雇用形態を問わないという点です。正社員はもちろん、パート・アルバイトのクルーも、働き始めた初日から対象になります。「まだ入って1週間だから」「シフトが週2日しかないから」といった理由で対象外になることはありません。

もうひとつ、社会保険や雇用保険と混同しやすいポイントがあります。労災保険料は会社が全額負担していて、クルーの給与から天引きすることは一切ありません。つまりクルーからすれば「知らないうちに会社が入れてくれている保険」であり、こちらから説明しない限り、その存在自体を知らないクルーがほとんどです。

業務災害か通勤災害かの判断は、意外と迷う場面があります。厨房でのやけどや切り傷はわかりやすい業務災害ですが、「出勤中に自転車で転んだ」「配達中にバイクで転倒した」といったケースも通勤災害・業務災害として労災の対象になります。逆に、通勤経路を大きく外れて私用を済ませている最中の事故などは対象外になることもあるので、「仕事に関係する場面でのケガかどうか」をまず整理する意識を持っておくとよいと思います。


労災保険料はいつ、いくら払っている?

「全額会社負担」と言われても、実際いつ・いくら払っているのかピンとこない方も多いと思います。労災保険料は、雇用保険料とあわせて「労働保険料」としてまとめて計算し、毎年6月1日〜7月10日の「労働保険の年度更新」で前年度分の精算と当年度分の概算納付を行います。給与のたびに天引きする社会保険料や雇用保険料とは違い、労災保険料は年に一度、まとめて会社が支払うお金だとイメージしてもらうとわかりやすいです。

料率は業種ごとに決まっていて、令和8年度の飲食店は賃金総額の3/1000(0.3%)です。たとえば年間の賃金総額が2,000万円の店舗なら、労災保険料はおよそ6万円という計算になります。決して小さい金額ではありませんので、きちんと活用したいところです。


ケガをしたときの補償内容

労災保険の給付請求書を確認しているほっともっとオーナーのイメージ

労災保険の補償は、大きく分けて2種類あります。

ひとつ目は療養(補償)給付です。労災指定病院で治療を受ければ、治療費は原則自己負担ゼロになります。健康保険証を使う必要はなく、労災保険の書式を病院に提出すれば済みます。ここを勘違いして、うっかり健康保険証で受診してしまうクルーもいるので、「労災の場合は健康保険証を出さないでね」と事前に伝えておくと現場が混乱しません。

ふたつ目は休業(補償)給付です。ケガの療養のために働けず、給料が出ない状態が休業4日目以降続いた場合に支給されます。金額の目安は、休業前の平均賃金の約80%相当(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)です。休業1〜3日目は労災保険からは出ず、業務災害の場合は会社が平均賃金の60%以上を補償する義務があります(通勤災害の場合、この3日間の会社負担義務はありません)。この「最初の3日間だけ扱いが違う」というところは、忘れがちなので注意が必要です。

なお、「業務災害」の場合は「療養補償給付」「休業補償給付」、「通勤災害」の場合は「療養給付」「休業給付」と、名称から「補償」の文字が抜けます。書類を書くときに間違えやすいポイントなので、頭の片隅に置いておいてください。


申請の流れ

ケガをしたクルーの様子を電話で確認するほっともっとオーナーのイメージ

実際にクルーがケガをしたときの流れは、次のようになります。

①受診・応急対応
まずは病院で受診してもらいます。可能であれば労災指定病院を選んでもらうと、窓口負担なしで受診できます。このとき病院に提出するのが「療養補償給付たる療養の給付請求書」(様式第5号)です。近くに労災指定病院がなければ、一旦立て替えて後日「療養の費用請求書」(様式第7号)で費用を請求する形でも問題ありません。どちらの様式も、厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」から記入・印刷用のPDFをダウンロードできます。

②会社への報告・状況確認
いつ・どこで・どのような状況でケガをしたかを、本人からできるだけ詳しく聞き取ります。この記録は、あとで請求書の「災害の原因及び発生状況」欄を書くときに必要になるので、記憶が新しいうちにメモしておくのがおすすめです。

③労働者死傷病報告の提出
休業が4日以上見込まれる場合、会社は労働基準監督署に「労働者死傷病報告」(様式第23号)を提出する義務があります。これを怠ったり、故意に提出しなかったりすると、いわゆる「労災かくし」として書類送検の対象になることもある重い義務です。休業が4日未満の場合も報告義務があり、以前は簡易な様式(様式第24号)で四半期ごとにまとめて提出する扱いでしたが、令和7年1月からは休業4日以上のケースと同じ様式で被災者ごとに報告する形に変わっています(提出頻度は引き続き四半期ごとで、4〜6月分は7月末、7〜9月分は10月末、10〜12月分は1月末、1〜3月分は4月末が期限です)。あわせて、労働者死傷病報告は電子申請が原則となっているため、様式・提出方法の最新情報は厚生労働省の「労働災害が発生したとき」のページ、または所轄の労働基準監督署で確認しておくと安心です。

④保険給付請求書の提出
療養(補償)給付や休業(補償)給付を受けるには、それぞれの請求書に事業主証明欄があり、会社側が就労状況や賃金額を記入・押印する必要があります。休業(補償)給付の請求書は「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)で、こちらも上記の様式ダウンロードコーナーから記入・印刷用のPDFを入手できます。ここは本人だけでは手続きが進まない部分なので、オーナー側が協力してあげる意識が大切です。


労災を使うのをためらわなくていい

ここまで読んで、「労災を使うと保険料が上がるんじゃないか」と気になった方もいるかもしれません。実は労災保険には、労災の発生件数によって保険料率が最大±40%上下する「メリット制」という仕組みがあります。ただしこれは、労働者数が100人以上、または20人以上100人未満で災害度係数0.4以上の事業所だけが対象です。1店舗あたりの従業員数が数名〜十数名という個人経営・小規模フランチャイズの飲食店は、この人数要件に届かないケースがほとんどで、そもそもメリット制の対象外になります。つまり「労災を使うと店の保険料が上がる」という不安は、多くの小規模店舗では当てはまりません。

むしろ怖いのは、労災を使わせたくないあまり報告を止めてしまう、いわゆる「労災かくし」です。労働者死傷病報告を提出しない、あるいは虚偽の内容で提出することは違法行為であり、実際に送検された事例も報道されています。クルーからすれば、ケガをして辛い思いをしているのに、会社が労災を渋る態度を見せたら、それこそ信頼を失います。

私は今、クルーがケガをしたときは「まず労災の手続きをするからね」と最初に伝えるようにしています。そのひと言があるだけで、クルーも安心して治療に専念できますし、こちらも堂々と手続きを進められます。

📋 労災の手続き、いざというとき慌てませんか?

AILLコンサルティングでは、労災発生時の請求書類の作成・労働者死傷病報告の提出サポートを承っています。「実際にケガが起きたときの動き方を確認しておきたい」という段階でもお気軽にご相談ください。

▶ 無料相談はこちら


まとめ

  • 労災保険は、雇用形態を問わず働き始めた初日から全クルーが対象。保険料は会社が全額負担し、クルーの給与からは天引きしない
  • 労災保険料は雇用保険料とあわせて労働保険料として、毎年6月1日〜7月10日の年度更新でまとめて納付。飲食業の料率は賃金総額の3/1000(0.3%)
  • 業務中のケガは「業務災害」、通勤中のケガは「通勤災害」。労災指定病院で受診すれば治療費は原則自己負担ゼロ
  • 休業4日目以降は休業(補償)給付として平均賃金の約80%相当が支給される。業務災害の場合、最初の3日間は会社に一定の補償義務がある
  • 休業が4日以上見込まれる場合、会社は「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出する義務がある
  • 保険給付請求書には事業主証明欄があり、会社側の記入・押印が必要になる
  • 労災を使っても保険料が大きく上がることは多くの小規模店舗では起こらない