「炒め物、また焦がしちゃって」
ガスポジションを新人クルーに任せると、こういう失敗が続くことがあります。フライヤーであればタイマーさえ守れば大きく外すことはありませんが、ガスはそう単純にいきません。
前回までの記事(#62 カウンター編、#65 ライス編、#69 フライヤー編)に続き、ポジション診断シリーズ第4弾となる今回は、「ガス」に向いている性格、実際の仕事内容、そして現場での教え方をまとめていきます。
ガスに向いてる人・向いてない人

ガスに向いているかどうかを分けるのは、時間ではなく素材の状態で判断できるかどうかです。フライヤーは商材を投入してタイマー通りに揚げれば完成に近づきますが、炒め物はそうはいきません。焦げやすいうえに、生焼けのリスクも常にあります。同じ「何分炒める」という工程でも、その日の野菜の水分量や、肉の解凍具合によって仕上がりが変わってしまうからです。
そのため求められるのは、決められた時間を守る几帳面さよりも、目の前の商品の状態を見て、火加減や時間を微調整できる観察力です。野菜は季節によって水分の含み方がまったく違いますし、肉を炒めるという作業でも、解凍具合で火の通り方が変わります。マニュアル通りに動くだけでは対応しきれない、料理の腕そのものが問われるポジションだと感じています。
こうした感覚が求められることもあってか、経験を積んだ落ち着いたクルーさんにガスを任せている店舗は多いです。若い新人クルーがいきなり任されると、時間だけを頼りに動いてしまい、焦がす・生焼けを繰り返しがちです。逆に、素材をよく観察し、慌てず一つひとつの調理に向き合えるタイプは、ガスでも安定した仕上がりを出せるようになっていきます。
加えて、ガスは待機中も手が空くことはありません。注文が入っていない時は、次のピークに向けたセット類の準備、解凍、下ごしらえと、常にやることがあります。目の前の調理をこなしながら、次の工程を考えて手を動かし続けられる人がガスには向いています。
ガスの仕事内容

ガスは、二口のガス台と電子レンジ、あわせて3つの調理器具を使い分けながら効率よく調理を進めていくポジションです。担当するメニュー数は時期によって変わりますが、10種類程度を扱います。
注文が入っていない時間帯は、次のピークを見越した準備に充てます。セット類の仕込み、コンベクションオーブンでの魚などの準備、肉の解凍がこの時間の主な仕事です。昼ピーク前には野菜のカットもしておきます。ピークに入ってからは、注文が入った炒め物を一つずつ手際よく仕上げていくことが求められます。
肉類は豚肉・牛肉など複数の種類があり、メニューに応じて使う量も違うので、間違えずに調理しなければなりません。野菜の量も感覚ではなく、きちんと量りで計量してから使用します。炒める順番や時間もある程度決まった工程がありますが、先ほど触れたとおり、野菜の水分量や肉の解凍具合によって微妙な時間調整が必要になります。最後に丁寧に盛り付けをして完成です。
この「同時にこなす数」は、経験とともに段階的に増えていきます。最初は一つずつ調理するところから始め、10時間ほど経験を積むと2つを同時に作業してもらい、さらに10時間ほどで3つを同時に調理できるようになってもらいます。最終的には3つの調理を同時にこなしながら、次のピークの準備も並行して進められる状態を目指してもらいます。
ガスの仕事の教え方

私の店舗では、まず使う商材の種類から教えます。特に肉類は豚肉・牛肉など何種類かあるため、どのメニューにどの肉を使うかを間違えないよう覚えてもらいます。
次に教えるのが野菜の分量です。感覚で盛るのではなく、量りできちんと計量する習慣をここで身につけてもらいます。この土台ができてから、炒め物の工程、つまりどの順番で何をどのくらいの時間炒めるかを覚えていきます。
ここまではいわば「型」の部分ですが、実際の現場ではその型どおりにいかないことの方が多いです。野菜の水分量や肉の解凍具合によって、決められた時間を微調整しなければならない場面が出てきます。この微調整の感覚だけは、マニュアルを読んでも身につきません。私は最初のうちは横について、「今日はキャベツが硬いから、あと少し炒めてみようか」というふうに、その都度声をかけながら感覚を掴んでもらうようにしています。
調理は最初、一つずつ丁寧にこなすところから始めてもらい、10時間ほど経験を積んだタイミングで2つの同時進行に挑戦してもらいます。さらに10時間ほど経ったところで3つの同時調理に挑戦してもらいます。そこから次のピークに向けた仕込みまで並行してできる状態を目指し、段階を踏んで任せる範囲を広げていくのが、ガスというポジションの教え方だと思っています。
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まとめ
- ガスに向いているのは、決められた時間を守る几帳面さよりも、素材の状態を見て火加減や時間を調整できる観察力を持つ人。野菜の水分量や肉の解凍具合によって仕上がりが変わるため、料理の腕そのものが問われるポジション
- 待機中も手が空くことはなく、次のピークに向けたセット準備や解凍、下ごしらえを進めながら、複数の工程を並行して考えられる人が向いている
- 仕事内容は、二口のガス台と電子レンジをあわせた3つの調理器具を使い分けながら、10種類前後の商品を一つずつ手際よく仕上げていくこと。商材の見分けと野菜の計量も欠かせない
- 調理の同時進行数は経験とともに段階的に増える。1つ→(約10時間で)2つ→(さらに約10時間で)3つ→最終的に3つ同時+次のピーク準備という順で任せる範囲を広げる
- 教え方は、商材の種類→野菜の計量→炒め物の工程という「型」を教えたうえで、水分量や解凍具合に応じた微調整の感覚を実践の中でつかんでもらう流れが基本