「最低賃金が上がったので、うちもクルーの時給を上げました。賃金規定等改定コースの助成金って、どうやって申請するんですか?」
昨年、オーナー仲間からこう言われました。気持ちはすごくわかります。時給を上げた=助成金の対象、と思いますよね。でも、この順番のままだと、1円ももらえない可能性が高いんです。手遅れになる前に一読しておいてください。
キャリアアップ助成金の賃金規定等改定コースは、有期雇用のクルーの基本給(賃金規定=時給表)を3%以上引き上げると、1人あたり最大7万円(引き上げ率で4万〜7万円)がもらえる制度です。職務評価をあわせて実施すれば、1事業所20万円の加算もつきます。仕組みの詳細は過去記事(「賃金規定等改定コース|4つの評価方法を比較する」)に書いてあります。そこで今回は「いつまでに何をしないと間に合わないか」だけに絞ります。
落とし穴①:最低賃金対応の「後追い」引き上げは、増額率にカウントされない

このコースの肝は「賃金規定を3%以上引き上げた」と認められること。ところが、最低賃金を下回っていた部分の引き上げは、原則としてこの増額率に含められません。賃金規定が最低賃金を下回っているのは、そもそも法律違反の状態。それを解消しただけでは「引き上げた」とはみなされず、あくまで新しい最低賃金を上回る部分の引き上げ幅で3%を満たす必要があるんです。
「最低賃金が55円上がるんだから、それで3%くらい行くでしょ」と思っていると、ここで足をすくわれます。
ただし、救済ルールがあります。新しい最低賃金が公示されてから、発効日の前日までの間に賃金規定の改定日を設定すれば、最低賃金に合わせた引き上げ分も増額率に含めて計算できます。埼玉県なら発効は2026年10月1日なので、改定日を9月中(発効日の前日である9月30日まで)に設定するのがポイント。10月1日以降に改定すると、この救済が使えず、最賃対応分は率に入りません。「発効してから動く」と、ここでアウトになります。
落とし穴②:キャリアアップ計画は「改定日の前日まで」に出す。事後提出は不可

キャリアアップ助成金は、どのコースでも先に「計画書」を労働局(またはハローワーク)に提出しておくのが大前提です。賃金規定等改定コースの場合、計画書は賃金規定を改定する日の前日までに出しておかなければなりません。
つまり、9月30日付で時給を改定するなら、9月29日までに計画書が受理されている必要があります。書類に不備があると再提出になるので、実際には9月上旬〜中旬には出しておきたいところ。「時給を上げてから、あとで計画書も出せばいいや」は通用しません。助成金の世界に事後報告はないと思ってください。私が最初に助成金で冷汗をかいたのも、まさにこの「事後申請は通用しない」でした(過去記事「ほっともっとオーナーが助成金を申請してみた【実体験】」)。
だから、9月中に動かないと間に合いません

埼玉県(発効2026年10月1日)を例に、逆算するとこうなります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 9月上旬〜中旬 | キャリアアップ計画書を作成し、労働局へ提出。就業規則・賃金規程に時給表(賃金テーブル)を位置づける |
| 9月中(新最賃の公示後〜9月29日) | 賃金テーブルを3%以上引き上げる改定を実施。改定日を9月中の日付に設定し、対象クルー全員に周知 |
| 9月30日までに | 新しい時給で給与を支払う。ここから6ヶ月間、引き上げ後の賃金を支払い続ける |
| 6ヶ月支払い後+2ヶ月以内 | 支給申請。賃金台帳・改定した規程・出勤簿などを添えて提出 |
見てのとおり、スタートの「計画書提出」と「9月中の改定」で早々につまずくと、あとの工程には進めません。10月に入ってから「そういえば助成金あったな」と思い出しても、埼玉県のスケジュールではもう手遅れ、ということです。
💡 発効日は都道府県で違います
10月1日発効が多いですが、数日ずれる県もあります。対象の店舗がある都道府県の最低賃金の公示日と発効日を、厚生労働省の公式サイトで必ず確認してください。「あと何日で改定日を設定しないといけないか」は、この2つの日付で決まります。
ついでに、よくある勘違いを4つ
①「最低賃金が上がれば自動でもらえる」
もらえません。賃金規定(時給表)そのものを改定するという行為が必要です。手元に時給表がなく、個々の契約書で時給を決めているだけの店は、まず時給テーブルを作って規程に位置づけるところからです。
②「1人だけ上げれば対象になる」
なりません。同じ雇用区分・職務のクルーの賃金規定をまとめて引き上げるのが原則です。「Aさんだけ時給アップ」は、この規定改定コースではなく別の話になります。
③「去年も最低賃金で上げたから、今年も自動的に3%」
毎年の最賃対応だけでは、上回る部分の引き上げ幅が小さく、3%に届かないことがよくあります。最賃ライン+αでいくら上げるかを、意図して設計する必要があります。
④「うちのクルーは全員そのまま対象になる」
対象になるのは、雇用保険に加入しているクルーです。週の所定労働時間が20時間未満などで雇用保険に入っていない人は、時給を上げても人数にカウントできません。さらに、オーナー(事業主)から見て3親等以内の親族は対象外です。ご家族を店に入れているケースは意外と多いので、「奥さんや息子さんの分も」と数えないよう注意してください。
📋 「今年はもう間に合う?」の判定だけでもどうぞ
AILLコンサルティングでは、賃金規定等改定コースについて、キャリアアップ計画書の作成から時給テーブルの設計、就業規則・賃金規程の整備、職務評価加算まで一括でサポートしています。「うちの発効日だと、いつまでに何をすればいいのか」を一緒に逆算しましょう。まだ間に合うかどうかの確認だけでもお気軽に。
まとめ
- 賃金規定等改定コースは、最低賃金を上回る部分の引き上げ幅で3%以上を満たす必要がある。最賃を下回っていた分の穴埋めは、原則として増額率にカウントされない
- ただし、新しい最低賃金の公示後〜発効日の前日までに賃金規定の改定日を設定すれば、最賃対応分も率に含めて計算できる。埼玉県なら改定日は9月30日まで
- キャリアアップ計画書は、賃金規定の改定日の前日までに提出。不備の再提出を考えると9月上旬〜中旬が目安。事後提出は不可
- 改定後は6ヶ月間引き上げ後の賃金を支払い、その後2ヶ月以内に支給申請
- 発効日を過ぎてから動くと、埼玉県のスケジュールでは今年分は間に合わない。対象店舗のある都道府県の公示日・発効日を今すぐ確認して、9月中に逆算した段取りを組むこと