「103万・106万・130万の壁」をクルーにどう説明するか AILLコンサルティング ブログ#060

「オーナー、これ以上シフト入ると税金やばいですか?」

先日、あるクルーからこう聞かれました。「103万の壁」「106万の壁」「130万の壁」——言葉はなんとなく知っているけど、じゃあどれに当てはまるのか、超えたら本当に損なのか。正直、聞かれてすぐには答えられませんでした。

給与計算をしている身としては恥ずかしい話ですが、それくらいややこしい制度なんですよね。この記事では、3つの壁それぞれの意味と、私が実際にクルーへどう説明しているかをお伝えします。


そもそも「壁」って何のこと?

シフトの相談をしながらオーナーに質問するクルーのイメージ

「壁」と呼ばれているのは、年収がある金額を超えると税金や社会保険料の負担が増えたり、扶養から外れたりする「境目」のことです。パート・アルバイトで働くクルーの多くは、配偶者やご家族の扶養に入りながら働いています。だからこそ「いくらまでなら働いても大丈夫か」がとても気になるポイントなんです。

よく聞かれる数字が103万・106万・130万の3つですが、実はそれぞれ意味も影響する範囲もまったく違います。ここを混同したまま説明すると、クルーさんもかえって混乱してしまうので、順番に整理していきますね。


103万円の壁——実はもう「103万」じゃない

扶養控除等申告書を確認するほっともっとオーナーのイメージ

一番よく耳にするのがこの「103万円の壁」。クルー本人の所得税と、ご家族が受けられる扶養控除に関わるラインです。

ただ実は、2025年の税制改正で基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、所得税がかからない年収の上限は103万円から123万円に変わっています。「103万の壁」という呼び方はまだ世間に広まっていますが、今クルーに説明するなら、正しくは「123万円」と伝える必要があるんです。

私も最初はここで混乱しました(笑)。制度が変わった直後は、オーナー自身が最新情報を追いかけていないと、古い数字のまま説明してしまう危険があるので要注意です。


106万円の壁——「社会保険に入るかどうか」のライン

マイナンバーカードを手にしたクルーのイメージ

次によく聞かれるのが106万円の壁。こちらは所得税ではなく、社会保険(厚生年金・健康保険)に加入するかどうかの基準です。ここ、実はオーナーでも勘違いしやすいポイントがあります。

そもそも社会保険の加入義務は、企業規模を問わず「4分の3基準」——週の労働時間・労働日数が正社員の4分の3以上(目安として週30時間以上)——で判定されるのが基本です。106万円の壁というのは、この4分の3基準に満たない短時間労働者について、厚生年金保険の被保険者数が51人を超える企業(特定適用事業所)に限り、追加で加入対象になる仕組みのことなんです。次の条件をすべて満たすと対象になります。

条件 内容
労働時間 週の所定労働時間が20時間以上
賃金 月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円)
学生要件 学生でないこと
企業規模 厚生年金保険の被保険者数が51人を超える企業(特定適用事業所)に勤務

ここで大事なのが、この「51人」はお店で働く人の総数ではないということです。数えるのは、フルタイム社員や4分の3基準を満たしてすでに社会保険に加入しているパート・クルーの被保険者数の合計。加入していない短時間クルーがどれだけ多くても、その人数はカウントに入りません。つまり在籍人数が51人を超えていても、被保険者数が51人以下なら特定適用事業所にはあたりません。しかもこの人数は1店舗ごとではなく、同じ法人が運営する全店舗の合計で判定するので、複数店舗を経営しているオーナーは自店だけで判断しないよう注意が必要です。

さらにこの「106万円の壁」自体も、2025年に成立した年金制度改正法によって見直しが決まっていて、年収要件(月8.8万円)そのものを段階的に撤廃していく方向性が示されています。今後は「収入がいくらか」よりも「週にどれだけ働くか」がより重要な基準になっていくはずです。この点は#58の記事で触れた「短時間労働者労働時間延長支援コース」とも関係が深いので、あわせて読んでいただけると理解が深まると思います。


130万円の壁——扶養を完全に外れるライン

最後が130万円の壁です。これは社会保険上の「被扶養者」でいられるかどうかの基準で、勤務先の会社規模に関係なく、すべての方に共通して適用されます。

年収が130万円(60歳以上や障害者の場合は180万円)を超えると、配偶者や親の社会保険の扶養から外れて、自分自身で国民健康保険や国民年金に加入するか、勤務先の社会保険に加入する必要が出てきます。106万円の壁は条件次第で対象外になるケースもありますが、130万円の壁は誰にでも関わってくる、いわば「最終ライン」だと考えるとわかりやすいと思います。


私がクルーにどう説明しているか

シフト表を見ながら面談するオーナーとクルーのイメージ

ここまでの話、数字だけ並べても正直頭に入りにくいですよね。私がクルーに説明するときは、次の2つを意識しています。

一つ目は、「あなたが気にすべきなのはどの壁か」を先に絞ること。学生クルーなら123万円の壁(旧103万円の壁)と130万円の壁が中心、配偶者の扶養に入っているクルーなら3つ全部に注意が必要、というように、その人の立場によって関係する壁は変わります。全部を一度に説明すると混乱するだけなので、まず自分ごととして関係のある壁だけを伝えるようにしています。

二つ目は、「壁を超えたら即損、とは限らない」と伝えること。これは次のセクションで詳しくお話しします。


壁を超えても、悪いことばかりじゃない

社会保険に加入すると、確かに毎月の保険料負担は増えます。月収8.8万円くらいのクルーだと、天引きされる社会保険料はだいたい1万3千円前後。「手取りがこんなに減るなら入りたくない」と感じる気持ち、正直よくわかります。

でも、負担が増える分だけ受けられる保障も広がるんです。たとえば健康保険の傷病手当金。業務外のケガや病気で働けなくなったとき、給料のおよそ3分の2にあたる金額を、最長1年6ヶ月受け取れる仕組みです。出産で仕事を休む場合も、同じ考え方で出産手当金が支給されます。国民健康保険にはこうした手当がないので、いざというときの安心感はかなり違います。

年金の面でも、厚生年金に加入すると老後にもらえる年金が「基礎年金+厚生年金」の2階建てになり、将来の受給額が上乗せされます。しかも保険料は会社と折半なので、実は自分だけで積み立てるより効率よく将来分を確保できているとも言えるんです。

もちろん、今すぐ手取りが必要な事情があるクルーにとっては、目先の負担が増えること自体がつらく感じる選択かもしれません。だからこそ私は、「加入したほうがいいですよ」と一方的に勧めるのではなく、保険料の負担額と、受けられる保障の中身をセットで見せるようにしています。実際に数字を並べて見せると、「思ってたより悪くないかも」と反応が変わるクルーも多いんですよね。

目先の手取りだけで判断すると損して見えることも、長い目で見るとそうとも限りません。ここは税理士や社労士に相談しながら、クルー本人が自分のライフプランに合わせて選べるように、判断材料を渡すことが私たちオーナーの役目だと思っています。「壁を越えないようにシフトを削る」ことだけが正解ではない、ということも、伝えられるといいですよね。

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まとめ

  • 103万円の壁は所得税・扶養控除のライン。2025年の税制改正で123万円に引き上げ済み
  • 106万円の壁は社会保険加入のライン。年金制度改正により年収要件は段階的に撤廃の方向
  • 130万円の壁は扶養を完全に外れるライン。会社規模を問わず全員に関わる
  • クルーには「自分に関係ある壁だけ」を絞って伝えるのがコツ
  • 壁を超えることは損とは限らない。将来の保障とセットで判断材料を渡すのがオーナーの役目