「また辞められちゃいました……」
顧問先のオーナーさんから、こんな連絡をいただくことがあります。最初のうちは「今回はしょうがないですね」「今回はお店の対応が原因だったかもしれませんね」と、その都度なんとなく感覚で受け止めて終わっていました。
あるとき、そのオーナーさんと一緒に離職の分析をしてみることにしました。過去18ヶ月分の離職について一件ずつ棚卸しです。件数にすると19件。その内容を精査してみて、「これは防げた」「これは防ぎようがなかった」がはっきり見えてきたんです。
正直、最初は気が重い作業でした。一件ずつ理由を思い出すたびに、オーナーさんも「あのときもっとこうしていれば」と反省する場面が多かったですし、逆に「これはどうしようもなかったな」と思うケースもありました。でもそのままにしていたら見えていなかった「損失の大きさ」と「防げた可能性」が、分析した結果くっきり浮かび上がってきたんです。
まず、募集費だけで37万円かかっていた

18ヶ月間の求人広告費(募集費)を合計してみたら、376,500円。月平均は20,917円で、そのうち3万円を超える月が3回ありました。募集費は正直、見えやすいコストです。求人媒体に払った金額として、すぐ分かりますから。
でも本当に効いてくるのは、そこじゃないんですよね。新しく入ったクルーが1人前になるまでの研修費です。この店舗の試算では、累計200時間(研修時間)に達するまでの人件費だけで1人あたり約228,200円。募集費の10倍以上です。この「見えづらいコスト」を含めずに離職を語ることは出来ません。
19件を「防げる」「防げない」「グレーゾーン」に分けてみた

19件それぞれの退職理由を洗い出して、3つに分類しました。
| 分類 | 件数 | 主な内訳 | 推定損失 |
|---|---|---|---|
| 防げる離職 | 6件 | 他社転職・仕事が合わない | 1,482,600円 |
| グレーゾーン | 3件 | 掛け持ち先への専念 | 741,300円 |
| 防げない離職 | 10件 | 介護・就職・ケガ・病気・学業・その他 | 2,471,000円 |
| 合計19件 | 4,694,900円 | ||
合計金額を見たとき、オーナーさんも私も声が出ませんでした。約470万円です。しかもその半分近く、「防げる」+「グレーゾーン」の損失は2,223,900円。介護やケガ、就職といった「防げない離職」はどうしようもないとして、この222万円は店長やオーナーの動き方次第で減らせた可能性があるんです。
「グレーゾーン」に分類した3件についても少し触れておきます。掛け持ち先への専念は、本人の生活の都合が大きく、こちらが強く引き止められる話でもない。でも、辞める言い訳にしている可能性はあります。この店舗が好きだったら、週1回でも勤務を続けていたかもしれない。
一番痛かったのは、短期で辞められたケース

金額そのものは大きくなくても、精神的に一番こたえるのは「採用したのに、すぐ辞められた」ケースでした。退職までの期間別に損失を並べてみると、こうなります。
| 退職時期 | 内訳 | 損失額 |
|---|---|---|
| 初日退職 | 研修費+募集費 | 23,464円 |
| 2週間で退職 | 研修費+募集費 | 55,412円 |
| 1ヶ月で退職 | 研修費+募集費 | 75,950円 |
| 研修200時間を終えてすぐ退職 | 研修費+募集費(最大損失) | 247,100円 |
特に初日・2週間での退職は、理由の多くが「仕事が合わなかった」でした。でもこれ、職場の雰囲気が良かったり、研修方法が違っていたら防げていたかもしれません。対応が早ければ早いほど、金額も気持ちの消耗も小さく済みます。
対策可能な222万円を、どう減らしていくか

数字を出してみて、このオーナーさんと一緒に考えて実際にお店で始めた対策は、大きく4つあります。1つずつ、なぜそれをやるのかも含めてお話しします。
| 対策 | 具体的にやったこと |
|---|---|
| ①採用・面接時の期待値のすり合わせ | 仕事内容や現場の忙しさ・雰囲気を包み隠さず伝える。掛け持ちで働く予定があるかを事前に確認する |
| ②入社直後のこまめなフォロー | 勤務終わりに必ず一言声をかける。数日〜1週間ほどで様子を聞くフォローアップの機会を設ける |
| ③月1回の個別面談 | 不満やキャリアの希望を「辞める前に」相談できる場を、定期的につくる |
| ④昇給タイミングの明確化 | 職務評価シートを使い、頑張りが時給にきちんと反映される仕組みを整える |
①は、短期離職の多くが「仕事が合わなかった」という理由だったことへの対策です。良い面だけを伝えて採用してしまうと、入ってから「聞いていた話と違う」というミスマッチが起きやすくなります。掛け持ちで働く予定があるクルーには、面接の段階で「メインの仕事はどちらになりそうですか?」「このお店ともう一つの職場の、勤務を考えている曜日や時間帯を教えてください」と聞いています。
②は、初日や入社直後は特に寄り添ってあげるということです。何も声をかけられないまま1日が終わると、クルー側は「ここで大丈夫かな」という不安を抱えたまま次のシフトを迎えることになります。逆にここでの一言が店舗の印象を大きく変えます。
③の月1回の個別面談は、このオーナーさんが特に効果を実感している対策です。不満や悩みを「辞める前に」言ってもらえる関係を意識してつくるようにしたところ、以前より小さな違和感の段階で相談が来るようになったそうです。
④は、以前ご紹介した職務評価シートの考え方です。「頑張りが給料に反映される」という実感があるだけで、他社への転職を考えるハードルは上がります。感覚ではなく点数と等級で昇給を判断できる仕組みがあると、クルー本人への説明もしやすくなります。
全部の離職を防ぐことはできません。介護やケガでの退職は、どう頑張っても防げないものです。でも「防げる」「グレーゾーン」に分類された9件、222万円分については、この4つの対策のように店長やオーナーの動き方次第で減らせる余地があります。まず自分の店舗の離職を、感覚ではなく数字で分類してみる。それだけで、次にやるべきことがはっきり見えてきます。
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まとめ
- とある店舗の18ヶ月分の離職19件を棚卸しすると、募集費だけで376,500円、研修費を含めた総損失は約470万円にのぼった
- 19件を「防げる離職(6件)」「グレーゾーン(3件)」「防げない離職(10件)」に分類。対策可能な損失は2,223,900円
- 初日・2週間など短期での退職は、金額以上に精神的な消耗が大きい。多くが「仕事が合わない」というミスマッチが原因だった
- 採用時の期待値のすり合わせ・入社直後のフォロー・月1回の面談・昇給タイミングの明確化という4つの対策で、店長・オーナーの動き方次第で減らせる離職は確実にある
- すべての離職は防げないが、まず自分の店舗のデータを分析することが、対策の第一歩になる