「先月、売上が過去最高でした!」
店舗責任者からそう報告を受けたとき、「おお、よかった!」と言いつつも、どこか手放しには喜べない自分がいます。
おかしいと思いますよね。売上が上がるって、普通は嬉しいことのはずです。でも経営をやって分かったことがあります。現実はそう甘くないと。今日はその話をさせてください。
売上が上がると、コストも上がる

売上が増えると、現場では何が起きるか。
注文が増える。ということは、材料をたくさん仕入れる必要があります。クルーのシフトも増やさないといけない。消耗品や光熱費もかさんでくる。繁忙の時間が長くなれば、残業が出ることもあります。
売上だけが上がって、コストがそのままなんてことは、現実にはほぼありません。売上が伸びると、コストも一緒に動くんです。問題は、その「コストの動き幅」が売上の伸びを上回ってしまうときです。
こんなケース、ありませんか?
売上が10万円増えた。でも人件費が5万円、材料費が5万円増えていたら——利益はゼロです。忙しくなった分だけロスやミスが増えれば、むしろ利益が減ることもあります。
「売上が上がった=よかった」と安心してしまうと、こういう変化を見落としてしまいます。
飲食経営の基本指標「FLコスト」とは

FC店舗を経営していると、売上よりも気にしなきゃいけない数字がいくつかあります。なかでも基本中の基本がFLコストです。
FLの「F」はFood(食材費・原価)、「L」はLabor(人件費)を指します。この2つを合計したのがFLコストで、飲食店の経営コストの大部分を占めています。
売上に対するFLコストの割合をFL比率といいます。一般的な飲食業では「FL比率60%以下が健全」とよく言われますが、ほっともっとはこの基準があてはまりません。業態の仕組みが異なるからです。
ほっともっとの場合、原価率は約50%と一般的な飲食店(30〜35%程度)より高めです。これはほっともっとの仕入れ構造によるもので、一般の飲食店とは異なります。
人件費率については、ほっともっとでは18〜23%程度が目安です。
| 項目 | ほっともっとの目安 |
|---|---|
| 原価率(F) | 約50% |
| 人件費率(L) | 18〜23% |
| FL比率 | 68〜73% |
たとえば売上が500万円の月に、食材費250万円・人件費100万円だとするとFLコストは350万円、FL比率は70%になります。これがほっともっとの「ふつうの状態」です。
つまり、ほっともっとの場合はFL比率70%前後をベースに、そこからユニット料・光熱費・ロイヤリティなどを差し引いた残りが利益になるという構造です。売上が上がっても、人件費率が23%を超えてきたり、廃棄ロスや不明ロスで原価率が50%を超えてくると、利益はあっという間に消えていきます。
繁忙期で売上が伸びても、クルーのシフトを増やした結果、人件費率が上がっていれば、FL比率は悪化します。売上がどれだけ伸びても、FL比率が悪化していれば手元に残るお金は増えない——このことを知っているだけで、経営の見方がかなり変わります。
「限界利益」を意識すると、もっとクリアになる
FLコストの考え方をもう一歩進めると、限界利益という指標に行き着きます。
限界利益とは、売上から変動費(売上に応じて増減するコスト)を引いた金額のことです。飲食店でいえば、材料費やクルーの人件費などが変動費にあたります。
計算のイメージ
売上 600万円 - 変動費(材料費・変動人件費)300万円 = 限界利益 300万円
この300万円で、ロイヤリティ・固定給・ユニット料などの固定費をカバーします。
限界利益が固定費を上回れば黒字、下回れば赤字です。
ここで大事なのは、「売上が増えても、限界利益が増えるとは限らない」ということです。繁忙期にクルーのシフトを大幅に増やして変動費が急増すれば、売上が伸びても限界利益はほとんど変わらない——なんてことが起きます。「あんなに忙しかったのに、なぜか利益が出ない月」の正体は、たいていここにあります。
損益分岐点を知っておくと、「今月は大丈夫か」がわかる

損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。この金額を超えれば黒字、下回れば赤字になります。
計算式はこちらです。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
※ 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上 × 100
たとえば、固定費(ロイヤリティ・固定給・ユニット料など)が月250万円、限界利益率が50%だとすると——
損益分岐点 = 250万円 ÷ 0.5 = 500万円
つまり、月の売上が500万円を超えれば黒字になる、ということです。
この数字を把握しておくと、月の半ばで「今月の売上ペースで損益分岐点を超えられそうか?」が判断できるようになります。売上が過去最高でも、その損益分岐点がどこにあるかによって、喜んでいいかどうかが変わってくるんです。
「売上が上がっているのに安心できない」という感覚の正体は、ここにあるのかもしれません。
繁忙期は「問題が隠れやすい」時期でもある
もうひとつ、売上が上がっているときに起きることがあります。
現場が忙しくなります。
忙しくなると、振り返る時間がなくなります。数字を確認する余裕もなくなる。問題に気づいても「今は繁忙期だから」と後回しにしてしまいます。クルーも必死で動いているから、業務の非効率をなかなか指摘できない雰囲気になったりもします。
一見うまくいっているように見えて、実は問題が蓄積されている状態——それが繁忙期の落とし穴だと思っています。忙しさの陰に、FL比率の悪化も、限界利益の縮小も、廃棄の増加も、ひっそり潜んでいます。
だから私は、「売上が上がっているとき」こそ、数字を細かく見るようにしています。うまくいっているときにも改善点を探す。余裕があるうちに手を打つ。売上が落ちてから焦るより、ずっと健全です。
「安心できない」は、正常な経営感覚だと思う
「売上が上がっているのに安心できない」——この感覚、変だと思いますか?
私は正常な反応だと思っています。売上という表面の数字に満足せず、その裏にあるFL比率・限界利益・損益分岐点まで気にしようとしている証拠だから。
逆に、売上が上がるたびに単純に喜んでいると、気づいたときには「なぜか利益が出ていない」という状況になりやすいです。私もそういう経験をしてきました。
飲食業は、数字の見方次第で経営判断がまったく変わってくる世界です。売上は入口の数字に過ぎません。そこから先——FLコストは適正か、限界利益は積み上がっているか、損益分岐点を超えているか——を見ていくことが、経営だと感じています。
「売上が上がっているのに安心できない」と感じたとき、その感覚を大切にしてみてください。それが、正しい数字を見るための出発点になります。
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まとめ
- 売上が増えると、材料費・人件費などのコストも連動して増える
- ほっともっとのFL比率は原価率約50%+人件費率18〜23%=68〜73%前後が通常の水準(一般飲食の「60%以下」基準はあてはまらない)
- 限界利益(売上-変動費)が積み上がってはじめて、固定費をカバーして利益が生まれる
- 損益分岐点を把握しておくと、「今月は黒字か赤字か」が月中でも判断できる
- 繁忙期こそ数字を細かく見る習慣が、問題の早期発見につながる
- 「売上が上がっているのに安心できない」という感覚は、正しい経営感覚の表れ
売上は入口の数字です。FLコスト・限界利益・損益分岐点——これらを合わせて見ることが、経営を安定させる第一歩になります。